展示会レポート

【展示会レポート10】デジタルで進化する住宅・不動産ーDXの最新動向
~業務効率化から顧客体験向上へ、業界変革の現在地~

はじめに

近年、住宅・不動産業界において「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が急速に広がっています。これまで紙や対面でのやりとりが中心だった不動産取引や住宅販売は、コロナ禍を経て大きな転換点を迎えました。オンライン内覧や電子契約、AIによる査定など、デジタル技術が業務の在り方そのものを変えつつあります。

業界特有の人材不足や業務効率化の必要性、そして顧客の利便性向上という観点からも、DXは避けて通れない課題です。本稿では、住宅・不動産業界におけるDX化の背景や市場動向、制度や仕組み、展示会での事例、導入時の注意点、将来展望を整理し、業界全体の変革の姿を明らかにします。


背景や市場動向

図1:不動産取引のDXプロセス(概念図)

不動産取引のDXプロセス(概念図)

出典:国土交通省「不動産DX推進戦略」、宅地建物取引業法改正(2022年施行)

住宅・不動産業界は、長らく「アナログな業界」と言われてきました。契約書や重要事項説明は紙媒体が基本で、営業活動も対面が中心でしたが、コロナ禍における非接触ニーズの高まりや、人材不足への対応を契機に、DX化が急速に進み始めました。

不動産テック企業の台頭も、この流れを後押ししています。AIを活用したオープンデータによる不動産査定、VRを活用したオンライン内覧、スマートロックやIoTによる遠隔管理など、多様なサービスが登場しています。これにより、顧客は時間や場所を選ばずに住宅・不動産情報を得られるようになり、取引のハードルは大きく下がりました。

市場動向を見ると、大手デベロッパーやハウスメーカーだけでなく、中小の工務店や地域不動産会社にもDX化の波が及んでいます。データを活用した顧客管理や業務効率化に取り組む企業が増え、「デジタル対応ができない企業は取り残される」との危機感が業界全体に広がっています。


制度や仕組みの紹介

表1:住宅・不動産DXの主要領域と関連制度

表1:住宅・不動産DXの主要領域と関連制度

住宅・不動産業界のDX化を後押しする制度整備も進んでいます。

宅地建物取引業法の改正により、2017年から賃貸取引におけるオンライン重要事項説明(IT重説)が導入され、2021年には売買取引にも拡大されました。さらに2022年には、賃貸・売買・媒介における契約締結時交付書面や重要事項説明書の電子化が本格化し、遠隔地の顧客との取引や契約業務の効率化が大きく進みました。

国土交通省は「不動産DX推進戦略」を掲げ、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や電子申請の普及を後押ししています。政府全体で進められるデジタル庁の施策とも連動し、住宅関連の申請や許認可手続きのオンライン化も進展しています。

制度や仕組みが整備されることで、企業はDXに取り組みやすくなり、顧客も安心してデジタルサービスを利用できる環境が整いつつあります。


展示会や業界事例

バーチャル映像で住宅を見学

展示会の場では、DXをテーマとした最新ソリューションが数多く発表されています。

ある展示会では、大手ハウスメーカーが「VR住宅展示場」を公開しました。来場者はゴーグルを装着し、実際にモデルハウスを歩くような体験ができ、営業担当者は「建築前にリアルな空間イメージを共有できる点が強み」と説明していました。従来の展示場に足を運べない層へのアプローチ手段としても注目されています。

また、不動産管理会社はIoTを活用した遠隔管理システムを紹介。スマートロックによる施錠・解錠管理や、共用部の電力使用量を自動記録する仕組みによって、管理業務の効率化と入居者サービスの向上を実現している事例を示していました。

さらに、BIMを活用した設計・施工事例も増えています。設計から施工、維持管理までを一元管理することで、工期短縮やコスト削減を実現した施工会社の事例は、業界関係者の関心を集めていました。


よくある失敗・注意点

DX導入には多くのメリットがある一方で、失敗事例も見られます。

一つ目は、導入したシステムが現場に定着しないケースです。形だけDX化を進めても、社員が使いこなせなければ業務効率化にはつながりません。導入時の研修や継続的なサポート体制が欠かせません。

二つ目は、複数のシステムが乱立し、データが分散してしまう問題です。営業支援、顧客管理、契約管理が連携せず、かえって業務が煩雑になることがあります。統合的なシステム設計と運用ルールの整備が重要です。

三つ目は、デジタルに不慣れな顧客への配慮不足です。オンライン手続きや電子契約は利便性が高い一方で、対面や紙を好む顧客層も一定数存在します。顧客のニーズに応じて、デジタルとアナログを併用する体制が求められます。


将来展望

不動産業界でDXが進んでいく

住宅・不動産業界のDX化は、今後さらに広がると見込まれます。

AIによる需要予測や顧客分析は、住宅開発や販売計画に大きな影響を与えるでしょう。メタバース空間における住宅展示場や不動産取引も、現実的な選択肢となりつつあります。

また、行政手続きのさらなる電子化やデータ連携基盤の整備により、不動産市場の透明性は一層高まると考えられます。価格や取引履歴のオープンデータ化が進めば、顧客の信頼性向上や市場の健全化にもつながります。

中小企業や地域の工務店・不動産会社にとっても、DXは避けて通れないテーマです。人材不足や業務効率化と直結するため、計画的なデジタルツール導入が今後ますます重要になるでしょう。


まとめ

住宅・不動産業界におけるDX化は、単なる業務効率化にとどまらず、業界構造そのものを変革する大きな流れです。

コロナ禍や人材不足、顧客ニーズの変化を背景に、電子契約の解禁や国のDX推進施策が整備されました。展示会や現場事例からは、VR内覧、IoT管理、BIM活用といった取り組みが着実に広がっていることが確認できます。

一方で、データ整理やで人材育成の遅れによる現場定着の難しさやシステム連携不足、顧客層への配慮といった課題も残されています。DXを成功させるには、ツール導入にとどまらず、業務プロセスや組織文化の見直しが不可欠です。

今後は、AIやメタバース、不動産データ基盤の整備を通じて、住宅・不動産市場はより透明で効率的なものへと進化していくでしょう。DXは、業界の競争力を高めると同時に、住生活全体の利便性向上や持続可能な社会の実現にも寄与する重要な取り組みといえます。

2026年2月