Speakers 東京臨海広域防災公園管理センター 副センター長 澤 善裕さん
こんにちは。このフェアの会場となっている東京ビッグサイトの北側にある公園、東京臨海広域防災公園管理センターから参りました澤と申します。
本日は、次の4つについてお話しします。
1.東京臨海広域防災公園について
2.関東大震災について
3.将来起こり得る首都直下地震、関東近隣への地震についてのお話
4.災害への備えについて
4つめは、とても大切な内容なので、皆様に実際にどのような備えが必要か少し長めにお話致します。
1.東京臨海広域防災公園管理センターについて
この会場、東京ビッグサイトの北側に公園があるのですが、そこが東京臨海広域防災公園という場所で私が勤務しているところです。南関東地域の防災拠点となっていて、国営ゾーンと都立ゾーンで南北に分かれており、国土交通省と東京都によって設置されています。
この公園は、首都直下地震などの大規模地震が南関東で発生した際に、国が支援を行うための拠点として作られました。
ただし、避難場所ではありません。皆さんを救援する方々、消防官やレスキュー隊、自衛官、警察官などの救援部隊を受け入れる場所です。それから、がん研有明病院の少し北側に小さな建物があります。ここは本部棟と言いまして、内閣府が管理する政府の緊急災害現地対策本部が入る予定地です。
こうした場所を作ったきっかけは過去の反省からです。1995年の阪神淡路大震災を教訓にして作られました。当時、神戸の震度だけ情報がありませんでした。そのため、情報を集める場所として本部棟が作られました。
もう一つ、支援専門の活動場所がなかったという問題もありました。救援物資を集める場所が必要でしたが、避難者と支援部隊が同じ場所で活動するという状況で、安全性が担保できないということもあり、支援拠点として、東京臨海広域防災公園ができました。
2.関東大震災について
では、次に皆さんがどう備えていくのかというのを考えるために、過去の地震についてご説明したいと思います。
100年前、首都直下地震の関東大震災が発生したのが9月1日、11時58分、多くの人が活動していた時間帯に地震が発生しました。
地震の震源域は、神奈川県西部から千葉県南部と言われています。マグニチュードは7.9の地震です。
マグニチュード8の巨大地震は余震も大きく、三浦半島の南辺りで12時3分、マグニチュード7.3でした。阪神淡路大震災と同じ規模の地震が余震で起きるんです。翌日、千葉県の館山の方では同じく7.3の地震が11時46分に余震で起きています。
実は、5つの地震が時間をかけて起きているんです。この中に山梨県で発生した地震もあります。
こういったことを踏まえると、本震だけでなく余震も含めて備えが必要になってくるわけです。
ちなみに、当時、震度は6までしかありませんでした。震度7ができたのは1948年に発生した福井地震の時です。被災した街並みを見て「これは震度6とは言えない」と研究者たちが考えて震度7が作られ、その後、初めて震度7が観測されたのが阪神淡路大震災です。
さて、地震による被害は東京で大きいという印象がありますが、実際には神奈川県も大変大きな被害が出ています。神奈川県は、震源域の真上にあったため、大きな被害が出ています。また、直下型地震は緊急地震速報より先に揺れることがあります。緊急地震速報がならずに突然来る地震にも備えなければならないということを覚えておいてください。
3.将来起こり得る首都直下地震、関東近隣への地震についてのお話
南関東の地下には太平洋プレートというプレートがあります。南の方からはフィリピン海プレートが北上しています。
東日本には北米プレート、西日本にはユーラシアプレートが存在します。計4枚のプレートが日本には集まっており、私たちの足元にはそのうちの3枚のプレートが重なっています。
これらのプレートのどこで揺れが起きるかわかりません。どのプレートが動いても地震はおきますから南関東全体でそなえる必要があるわけです。
首都直下地震の想定としては、19ケースを想定してシミュレーションが行われています。また、19ケースのシミュレーションを重ね合わせた震度分布図も作られました。
これは、南関東では、どこでも震度6弱を超えるような強い地震が起きることを示したものです。
ご自身が住んでいる場所は、最大でどのくらいの震度が想定されているのが、そして、そこが昔どんな地盤だったか、何があったかを確認してそなえてほしいと思います。
では、首都直下地震とはどんな地震で、どのような被害が出るかお話していきます。
マグニチュード7クラスの地震が南関東で起きる確率は30年以内に70%と言われていますので、天気予報だと70%の確率で雨が降ると言われたら皆さん傘を持って行くと思うんです。では、地震が来ますと言われて、傘に相当することをされていますか?
亡くなる方の想定は2万3千人です。阪神淡路大震災の3~4倍です。とても大きな被害です。火災による被害が多いと想定されています。経済的被害は95兆円と言われています。
想定を出してから10年の間に、多くの方が防災に取り組んでいます。ご自分やご自身の大切な人のためにもぜひ備えてほしいと思います。
将来を考えて、南海トラフ地震についても数字を見ておきましょう。私も皆さんもたぶん経験する地震です。マグニチュードは8クラスまたは9クラスといわれています。これが、どれくらいの規模か考えてみましょう。
マグニチュードは一つ上がると地震のエネルギーは32倍あがります。マグニチュード7にくらべてマグニチュード9になると32×32になります。南海トラフ地震では死傷者32万人、被害額220兆円という想定です。こういった被害想定を少なくできるようにぜひ備えていただきたいと思います。
4.災害への備えについて
最後に具体的にどう備えるべきかご案内しましょう。
身の回りの防災ということで、災害後の生活を考えて、3つご紹介します。
1「安全な場所を作る」
2「トイレにそなえる」
3「食事に備える」
1.安全な場所を作る
皆さん心の中で確認しましょう。皆さんの今住んでいるお宅は、新耐震ですか?
1978年の宮城県沖地震の後、耐震基準変わったんですよね。
1981年の6月以降に建てられた建物は、新耐震基準で建てられ、ここから後の建物は震度6強や7の地震が起きても倒壊しないことを基準としています。
ただし、耐震基準を満たしている家も安心とは言えないんです。
阪神淡路大震災に遭われた方のメッセージに「白アリにも注意しよう」という一言がありました。新耐震後の家でも定期的に強度や耐震基準を点検することが必要になってきます。
もし、家の状態が危ないなと思ったら、補強するか引っ越すか等の選択が必要となってきます。
さて、では次に部屋の中です。皆さん、家具の固定をされてますか?
阪神淡路大震災は早朝に発生しました。亡くなった方は6,434名です。そのうち8割程度の方が恐らく15分以内に亡くなっただろうと検死の結果から想定されています。15分ですと、助けに来てもらう時間がないんです。救急車に来てもらおう、助けてもらおうではなくて、そもそも潰されない部屋に住むしか選択肢がないです。
「怖くて置けません」
自分の部屋には家具や机など何も置けない、と阪神淡路大震災を経験したあるお父さんがおっしゃっていました。実際に揺れを経験したからこその言葉です。
家族全員が安全にすぐ動き出せる空間を作ることは重要です。となると家具の固定をする必要があります。冷蔵庫やタンスなど背の高いものは倒れます。
そこそこの高さのサイドボードは、転倒もしますし滑ります。テーブルやテレビのチェストなどの低いものは滑ります。住んでいる環境にもよりますが、背が高いものは倒れないように突っ張り棒やL字金具、背の低いものなどの滑ったり倒れたりするものは滑り止めや金具でを固定をしてください。滑り止めのグッズは100円ショップでも購入できます。
では、皆さん質問です。突っ張り棒の正しい固定場所はどこだと思いますか?
それは、壁の奥側なんです。背の高い家具は前に倒れてくる。前に倒れてくると、壁側、つまり奥になる方が持ち上がってきます。右側の絵のようなイメージです。突っ張り棒を手前側に設置すると家具が傾くことで、外れてしまいます。設置の確認と合わせて、突っ張り棒に緩みがないか確認してください。
東京消防庁の実験では、一番効果があったのは、L字型の金具です。普通にL字で設置するのではなく逆さに固定する方法が効果が大きいそうです。自分で設置するのが難しい場合は、地元の役所で耐震補強のために家具を固定したいと相談すれば、信頼されている建築士さんなどを紹介してくれます。補助金が出る場合もありますので、相談してみてください。
さて、皆さん台所はどうでしょう?地震が発生したらでガスコンロの火を消しに行きたい方が多いと思います。でも、ガス式のコンロは自動で消えます。地震が起きますとガスメーターがガスを遮断するので消えるんです。なので、皆さんにお願いしたいのは、やけどをしないために、まず調理場から離れて欲しいです。
天ぷらを揚げている時に地震が来た。火を消そうとして手を伸ばして油でやけどをしてしまったら、救急車を呼ばなければいけませんね。でも救急車は来られません。同じような方がたくさんいるからです。覚えておいてほしいのは、火は自動で消えます。鍋からこぼれたものは冷めてから後で掃除すればいいんです。とにかく台所から離れてください。また、非難するときに妨げになる家具や冷蔵庫も倒れてこないように固定してください。
逃げる時のために部屋のレイアウトも考えておいてください。ドアの近辺にはものが倒れないように固定してください。
家具だけでなく、ガラスの飛散もあり得ます。飛散防止シートを貼ったり、カーテンを閉めておくなどの対策もしておきましょう。
それからすぐに動き出せるように、スニーカーや靴を家の中に置いておく、停電の可能性もありますので懐中電灯など明かりを用意しておくことも大事です。もし停電が回復したとしてもコンセントのケーブルが痛んでしまい火災が起こるかもしれないので、通電火災に備えてコンセントは抜く、使わない部屋のブレーカーは落としたままにしておくなど電気関係も確認と対策をしてください。
2.トイレにそなえる
次にトイレです。どうにか地震は乗り越えたとします。落ち着いたところでトイレに行きたくなったらトイレの水が流れると思いますか?停電するとポンプが停止して高層の建物では水が出なくなります。トイレも流せなくなることを覚えておいてください。
「マンション一階の洋式トイレから汚水が…」
東日本大震災の時、仙台のあるマンションでのことです。そのマンションの下水管がつぶれてしまっていました。上のフロアの住人は「地震、すごかったわね~」と言いながらトイレを使う。すると最後に、一階のお宅のトイレから茶色い水がサブサブ出てくる。どこでも起こる可能性がある事例です。
もし、トイレの水が流れる状態でも、下水設備が健全であると確認がとれるまで流さないでください。オフィスでも家庭でも水を流さないようにというのを覚えておいてください。
とはいえ、私たち用を足さないわけにはいかないですよね。一日何回トイレに行くと思いますか?家族で何回、何日と考えた時に、相当な回数トイレに行くことになりますよね。その回数を考えて分厚いビニール袋を用意してください。中身が見えないように黒がいいですよね。
本会場でも防災のエリアでトイレ用の袋を紹介していました。袋の表面から臭いが漏れるそうです。二重三重にして保管してください。
さて、この袋をゴミ捨て場に出したいですよね。考えてみてください。多くの家庭から袋の汚物のごみが積み上がっていくと、最初に出したものが重みでつぶされて中身が出てしまう。町も悪臭が漂うことになります。ゴミ収集が再開されるまで、ごみに出さず自宅で保管してください。ごみ袋の汚物を衣装ケースに入れてベランダに置いておくのがおすすめです。ゴミ収集が来たら出してください。衣装ケースごと運んで、中身だけゴミに出してください。
それから、トイレットペーパーと衛生用品も同様に準備が必要です。ビニール袋だけあってもお尻は拭けません。ウォシュレットが必要な方は、ウォシュレットの代わりになるものご用意ください。色々な物の衛生用品を大量に備蓄していく必要があります。
ゴミ収集が来るまで時間がかかると思われます。なぜなら自治体の焼却炉も被災しているからです。ゴミ収集業務の方も被災者です。全員が被災者なので、いつもの生活が全部止まってしまいます。
「防災」によって、いかに今までの生活を続けるかをポイントに準備をお願いしたいと思います。
3.食事に備える
南関東の人口は約3,600万人以上です。これだけ多くの人が住んでいると食料がすぐに不足するので備蓄が必要です。東北や北陸や中部、四国の方々が物資を送ってくれると思いますが、送られてくる量と食べる量では、食べる量の方が多いんです。なので、家で蓄えてほしい。この時に防災食とともに普段食べているレトルト食品なども準備すると良いでしょう。
東日本大震災以降、レトルト食品の賞味期限がどんどん伸びています。日常食べているものを揃えておくといいと思います。普段よく食べる○○カレーのレトルトなら3食は食べられると思えば、そういったものをたくさん備蓄しておきましょう。乾パンを3食食べるよりはずっと良いと思います。ローリングストック、循環備蓄という方法で、常温で保存できるレトルト食品などをたくさん用意しておいて、食べたら買い足す、買ったら食べるという方法で回していきます。こういった方法で自宅でも食品をたくさん備えて頂きたいと思います。被災した時に、缶詰などの防災食を毎日食べるのは正直厳しいです。いつも食べていて美味しいと思うものを食べてください。
そして、もう一つ。食べる順番です。地震後、停電してしまった場合に最初に食べて頂きたいのは冷蔵庫の中にある生鮮食品です。冷蔵庫の中身から食べる。その次に冷凍庫で溶けてきた冷凍していたお肉とか、そういったものから消費していきます。常温の保存食と非常食を組み合わせて美味しく食べていくことが必要になります。同時に備蓄も考えてください。図にはに最低7日と書いてありますが、10日以上でも良いでしょう。たくさん買って備えてください。
プラスアルファのそなえ
【お薬のそなえ】
お薬手帳は、コピーでも構わないのでいつも携帯してください。薬の名前や飲む回数・量の情報がないと災害時に薬を出せる状況になっても出せません。もし、手書きでお薬の情報を書き写すなら、水性ペンではなく油性ペンで書いてください。
【連絡手段のそなえ】
家族の連絡先がすぐに分かるように、紙に油性ペンでメモ書きをしておきましょう。
【充電器のそなえ】
スマートフォンの充電の場合、単3電池だと一日10本程度必要です。4人家族なら40本も必要になるので、長丁場になることを考えると電池で対応するのは難しいです。発電ができる環境を準備しておくとよいでしょう。ある方は、最終的にハイブリッド車を買おうとおっしゃっていました。発電ができる車が良いということですね。ご自身にあった充電設備、発電用の道具を用意しておいてください。
【再会する場所を決める】
(家族が)再会する場所を1か所ではなく、3か所くらい決めておいてください。東日本大震災では避難場所が焼けてしまいました。どこに避難すればいいのか、家族はどうなっているんだろうといった心配や不安が出てくると思います。家族が再会する場所を二つ、三つ決めておいてください。
その時に必要になるのは家族の写真です。印刷した写真を持ち歩いてください。スマートフォンはバッテリーが切れてしまったら使えません。
さらに災害時だけでなく、普段からクッションとしても使える寝袋といったフェーズフリーの防災グッズを用意しておくといいでしょう。
最後にメッセージです。
私の勤めている施設(東京臨海広域防災公園)にいらした東北から来たお客さんの言葉です。
「苦労はしなくていいから努力しておいてほしい」
苦労じゃなくて、やってて良かったと思える努力をしておけば、被害を抑えることができます。
いつ起きてもおかしくないのが地震です。
どう備えるか。どう生活をするか。助けてもらおうではなくて「うちは大丈夫だから隣に行ってください」という家が増えればたくさんの人を救うことができます。地域全体や市区町村単位で人々を助けることができます。災害が起きても、ぜひ良い生活、人生を送れるように今からそなえてください。